フリースクールでフリーエンジニア
DVDフリースクールの世界では現生人類が絶滅し、ネアンデルタールが高度な文明社会を築いてました、と。フリーエンジニアはほとんどこれ一本で、つまり『新・猿の惑星』ですね。こっちの世界では両文化間のギャップが主なセンス・オブ・ワンダー発生装置。同時に、向こう側の世界も(『猿の惑星』的に)みっちり描写される。といっても仰天する合宿免許はそうないんだけど、そっちは続巻に期待するとして、この巻の魅力は、「生きたネアンデルタール出現!」という椿事に対する世間の反応のリアルな描写と、人間味たっぷりのフリースクール 。最初から合宿免許が割れてるのにどんどん読ませる快調な語りは、ソウヤー作品の中でも最高レベル。続きも好きになれるといいんだけどなあ。田中啓文『UMAハンター馬子完全版』(ハヤカワ文庫JA1七八〇円2九〇〇円)は、学研で途中まで出てた伝奇連作に書き下ろしを加えて完結させた全2巻。有名UMAの「意外すぎる正体」を毎回、話のついでに暴く構成は抱腹絶倒だが、最終話は怪獣が出てきて結局『SE 求人』みたいなことに。結局いつも通りかよ!チュパカブラの正体を知りたい人は必読です。平谷美樹『黄金、の門』(角川春樹事務所一九〇〇円)1/2は、『エリ・エリ』『レスレクティオ』に続く、神SF三部作(または『エンデュミオン・エンデュミオン』を加えた四部作)の完結編。時系列的にはこれがエピソード1になる。小説としては今までで一番読みやすいが、現代のエルサレムを舞台にした一種の異境青春小説なので、SF味は薄い。神SFと言えば、ペーパーアイテム のデビュー作『神狩り』のなんと30年ぶりの続編、『神狩リ2 リッパー」』(徳間書店)がついに出た。今年の日本SF最大の話題作(問題作?)なんだけど、もう紙数がない。評価保留。どこが問題なのかは次号でじっくり書く。デビュー以来、ほとんどの作品に邦訳がありながら、早川、新潮と二つの出版社の間をキャッチボールするように紹介されてきたせいか、リドリー・ピアスンはいまだわが国ではまとまった評価が得られていない作家だ。『深層海流』や『予備審問』といった作品は、異常心理を扱ったスリラーとして抜群のリーダビリティを誇っているし(とりわけ、後者は『羊たちの沈黙』の大胆なイミテーションでありながら、十分楽しめる)、ミュージシャン時代の経験をいかしたウェンデル・マコール名義のハードボイルドも、肩の力の抜け具合が実によろしい。そろそろ評価が定まっていいのでは、と思っていたところに紹介されたのが、『螺線上の殺意』1/2(羽田詩津子訳/角川文庫八八〇円)という作品である。DVDコピー の刑事が自殺事件の謎を追っていくという出だしは、一見まっとうなミステリなのだが、実はとてつもなくオフビートな展開が待ち受けている。事件の現場に駆けつけた主人公ダートの心の中に、三年前の偽装殺人事件の忌まわしい記憶が浮かんだ。今は退職した当時の上司ゼラーをかばって、ダートは殺人と確信する事件を、自殺と判定したのだった。捜査をすすめていくうちに、今回の事件もゼラーの仕業ではないかという疑念が、彼の心の中で膨らみはじめる。主人公の立たされる逆境は、とにかく半端じゃない。主人公は、少年時代に母親から暴力による虐待を受けたというトラウマを抱えている。さらに、師と仰ぐ元上司が、連続殺人犯ではないかという思いに怯え、そしてその責任の一端は自分にあるのではないかという良心の呵責に苦しんでいる。おまけに、私生活では別れた女への思いをいまだ断ち切れずに、悶々としている。これだけの苦悩を抱えた主人公も珍しいだろう。一方、事件の方も、血液検査で同じ異常がみつかり、被害者のミッシングリンクが浮かび上がってくるあたりの展開は、大胆でスリリングだ。ただ、帯のフリースクールや邦題が、あまりに一直線に題材へ向かっているのはどうか。複数の自殺事件を繋ぐ意表をついたリンクが素晴らしいフリーエンジニアであることを考えれば、伏せておいた方が得策だったようにも思えるのだが。ともあれ、トラウマと闘いながら、SE 求人・フリーエンジニア が繰り広げる因縁の師弟対決は、後半ハイテクを駆使した追跡劇へとなだれ込み、読者を心地よくひきずり回してくれる。一筋縄じゃいかない面白さに満ちたこの一編は、これまで目立たなかったピアスンの株を、ぐっと押し上げることになるに違いない。風変わりという点では、フィリップ・カーの『殺人探究』(東江一紀訳/新潮文庫六六七円)もひけをとらない。《ベルリン三部作》で過去を題材にしたと思ったら、今度は近未来である。舞台は、二十一世紀のイギリス。凶悪犯罪の防止システムが試験的に導入されるが、そこに登録された潜在的な犯罪者のデータが盗まれ、リスト上の被登録者が何物かによって次々と殺されていく。シリアルキラーものの未来形といった興味深さも然ることながら、警察とのやりとりや犯人の手記という形で挿入される殺人をめぐる哲学が、一種独特の雰囲気を醸し出している。しかし、そんな趣向が作者のひとりよがりにならず、合宿免許 という見立ての面白さ(被害者には、歴史上の人物がコードネームとして付されているのが愉快)があったり、二つの事件の捜査がシンクロする面白さがあったりと、読者のもてなしを忘れていない小説作法が嬉しい。もうひとつ、現代が舞台だったら鼻につくであろう男嫌いの女警部をあえて主人公にしたあたりにも、作者の皮肉で冷静な計算がはたらいている。男に対して暴力的であることに悩む主人公が精神科医に通うくだりなんぞ、フェミニズムをめぐる議論に飽き飽きしている身としては、実に痛快。相変わらず映画化ラッシュの続くマイクル・クライトンだけれど、新作『エアフレーム―機体―』(酒井昭伸訳/早川書房上下各一八○○円)もすでに映面化が決まっているらしい。